祖父の矜持

私の実家はその昔造り酒屋を営んでいました。
造り酒屋といってもいたって小規模の蔵で生産量もしれていたようです。
そんな事もあり、第二次大戦後の改革の中で近隣の酒蔵のいくつかと強制合併させられ消滅してしまいました。
一定規模以下の蔵の存続が認められなかった様です。
そんな造り酒屋の4代目の主で最後の主だったのが私の祖父です。
明治生まれの寡黙で頑固で、ちょっとハイカラなおじいちゃんでした。
その祖父の道楽の一つが骨董品集めで、
結構見境無く色々と集めていました。
そんな祖父のちょっとしたエピソードをお話ししたいと思います。

ある日、祖父が町中を歩いていた時です。
道路脇のゴミ置き場に見知らぬおじさんが壺を一つ捨てようとしていたそうです。
その壺をちらっと見た私の祖父はその壺がほしくなってしまいました。
もしこれが私なら、その見知らぬおじさんが捨てるのを待って素知らぬ顔で拾って帰ったと思います。
ところが祖父は、そのおじさんに声をかけました。
「その壺捨てるんですか?」するとおじさんは「はい。そうです」と。
続けて祖父は言いました。
「だったらその壺、私に譲って頂けませんか」
そう言って、財布から千円札を2枚取り出しました。
見知らぬおじさんはかなり驚いたようですが、
黙ってその2千円を受け取り、壺を譲ってくれたそうです。
ただそれだけのエピソードなのですが、
子供の頃はこの話がよく分かりませんでした。
ほんの少し待てばそのおじさんが捨てていってタダで手に入るものを、
どうしてわざわざお金まで払って譲り受けたのか。
しかし半世紀以上生きた今、祖父の気持ちが少し理解できます。
造り酒屋の当主として誇り高く生きてきた祖父の、ちょっとした矜持だったんだと。
ちなみに祖父が作っていた酒の銘柄は「八十嶋(やそしま)」といいました。

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